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人はみな、それぞれ違う人生を生きるのだ ~夫のちんぽがはいらない

2017.01.20 (Fri)

かなりインパクトのあるタイトルで、発売前から話題になっていた本です。

もともとは、文学フリマという純文学系の同人イベントで売られている同人誌に掲載され、長蛇の列ができるほどに売れた本の書籍化。
作者のこだまさんは、ブログやネットエッセイもやっておられるそうです。

内容ですが、いわゆる私小説です。
最近は普通に見られるようになった、いわゆる個人の体験や特異な状況を暴露する系の本ではありません。
話題性はありえないほど山盛りですが、それを人に晒して見せる内容ではない。

じゃあどんな内容なんだよって言うと、両親から完全自己否定されて成長した女性が、限られた人間と閉鎖的で固定された価値観に固まった僻地の故郷を離れ、自分の足で歩き、自分の力で生きていく中で、自己否定の呪いから少しづつ自分を解放していく経験を綴っています。
以前から絶賛されいたようですが、文章が素晴らしい。
さらに、自己憐憫とか自己愛、自己承認を求める部分がきれいさっぱりありません。
「なんてかわいそうなわたし」とか、「こんなに大変な経験してるんだ」的なものがないのは、こだまさんが書きたいのは、そういうもんじゃないし、彼女にはそういう視点も考えもないのだろうと思います。

じゃあ、こだまさんはこれを読む人たちに、何を伝えたかったのか。

「見かけも醜く、かわいげもない性格」と両親から言われ成長し、学生時代、満足に人とも話せないまま終わって、友達もいなかったというこだまさんが、故郷を離れ、大学に進学して、そこで現在のご主人と出会います。
数年後に結婚することになる彼とは、今もってセックスができない。
その部分の描写は、何度も何度も出てきます。

そして、こだまさんはなんと、他の男性とはどんな人とも、まったく問題なくセックスができる。。。ということも、淡々と書いています。
この部分、正直「ここまで書いていいのか」と思うほどの内容ですが、こだまさんが書きたいのは、セックスの部分ではなく、「どうして大事な、愛する人とはできないのに、行きづりのどうでもいい男とはできるのか」という葛藤だと思いました。

つまるところ、「普通は誰でも当たり前にできて、出来て当然、あって当然のことができない」苦しみを綴った本です。

夫とセックスができない、結婚しても子供が出来ない、仕事を続けることができない、などなど。
なぜできないのか、どうしてなのかというものを、本人もわからないまま、「世界中の人が出来て当たり前のことを、できない自分」という形でつきつけられ、向き合うことになる苦しみとつらさ。
そして、当たり前だからこそ、悪意なくつきつけられる世間の言葉や価値観。
「だって、夫のちんぽがはいらないんです」って言ってしまえばそれまでのことですが、それがどれほどに、世間の”当たり前”に恐ろしいほどの影響を及ぼすか、どれほどにインパクトがあるかを考え、さらには「そんなのありえない、おかしい」という当然の反応があることが、こだまさんを苦しめます

もともと自己肯定感が低い方なので、何度も何度も、自分を責める文章が出てきます。
いやいや、とんでもない、こだまさん、真面目に一生懸命に、ものすごくがんばってると私は思う。
そして、何があっても穏やかで優しい視点があることが、この本に書かれているシビアな内容を、まったく違う形にして読む人に差し出していると思いました。

はっきりいってしまえば、セックスできない、あるいはしていない夫婦がそこまで問題か、そこまでレアな存在かとは、私はまったく思っておりませんで。
周辺、性生活がない夫婦や恋人同士はレアな存在ではないし、下半身不随やEDで物理的に無理というご夫婦も知っています。
そういうのなくても、子供がいない夫婦は普通にいる。
世間がいうところの”普通はこういうのは当たり前”ってのは、オタクの人のほとんどがブレイクスルーしていて、「まー、世間一般の人はそうだと思うけど、ごめーん、私、オタクなんで」とすでにその先にいっちゃってるから、あまりそういうのを気にせずにいますが、そういうのに苦しみ、潰されそうになっている人が多いのもわかります。
生まれも育ちも都会な私は、良くも悪くも多種多様な生き方や在り方に慣れていますが、地方出身の友人たちからは「未婚で実家かえると、いろいろ面倒くさいし、同級生とも生きてる世界が違いすぎて、会話が成立しなくなってる」という話はよく聞きます。

AV監督のバクシーシ山下監督の著書には、世間一般に普通なことが出来なくて悩んでいる人、じゃなくて、ガチで”普通というカテゴリーから逸脱した人たち”のことが書かれています。
そこに書かれている人たちは、普通な人生を送ることは限りなく不可能で、恐らく”普通が当たり前な世界”では生きられない人たちだと思いますが、監督はそういう彼らを暖かい視線で見ていました。
私はその本がとても好きで、そこに書かれた人たちにも、嫌悪感も否定的な考えもまったく持たずにいます。
法に触れるようなことをせず、他人に迷惑をかけずに、その人が真摯に真面目に生きているのなら、普通であることとか、世間が当たり前と思うことに沿っていないことなんて、どーでもいい。
彼らは彼らの人生を、笑顔で生きる権利があるし、逆に、それを否定する権利は誰にもないと思っています。

読み終わった後、なんかこう、黙って青空を見上げる。。。みたいな気持ちになりました。
いわゆる、自分のレア体験を綴ったものとか、不幸な人生を露わにしたコミックエッセイとか、苦手でほとんど読まないのですが、この本はそういう本ではありませんでした。
この本を読んで、救われる人はとても多いと思うし、ほっとする人とか、どうしようもなく泣けてしまう人も多いと思います。
いい本でした。

個人的にひとつ、気にかかることが。

ここまで赤裸々に人生を綴ったこだまさん、プライバシーは保たれるだろうかってそこ。
恐らく爆発的に売れるであろうこの本、同人誌で売れたとかいうレベルとは、桁はずれに違う世界がそこに現れると思います。
すでに、批判的、否定的な感想もあがっている中、世の中にはそれこそ、とんでもない人もいる。
お仕事のこともかなり詳細に書かれているし、ご本人がそういった世間の”荒波”に耐性高い方とも思えず。
できれば、こだまさんの違う作品も読んでみたいので、ぜひとも、ここで終わらずに、次のステージへと向かっていただきたいと思います。


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