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不毛な関係の向こう側に ~ほかならぬ人へ



読書会で知り合った方にお勧めいただいたので、読んでみました。
白石一文の本を読むのは初めて。
直木賞受賞作らしいです。
中篇2編収録でした。

ひとつめ。
資産もある名家に生まれながら、それに馴染めずに家族と距離を置く主人公は、キャバクラでバイトをしていた女性と知り合い、親の反対を無視して結婚します。
2年後、妻が、元恋人の男性が離婚したのを理由に、その人のところに行きたいからと別居を申し出てきます。
つらい日々を送る主人公に色々配慮してくれたのは、社内であからさまブスと言われ、しかし仕事ぶりの評価が高い女性の上司でした。

ふたつめ。
会社社長の父と大病院の医師な母を持つ主人公の女性は、社内一イケメンの有望株の男性と婚約したばかりですが、実は、元上司と長年の恋人関係にありました。
婚約してからも、彼女と元上司の関係は続いており、彼女は婚約者より彼のほうが、自分にとって大きな存在である自覚はありますが、それでも、そのまま別の男と結婚していくことに疑問を感じてません。
そんな中、会社が吸収合併されることになり、派閥争いの中で、元上司は会社を去ります。
彼女はその後も彼のマンションを訪ね、そしてそれは結婚式の朝まで続きます。

白石一文、今別でもう1冊読んでいるのですが、この方の書くものは、いわゆる不倫関係がけっこう多いようです。
個人的にはそっちテーマだと、まったく興味ないし、むしろ好きではないのでどーよ?って感じですが、この本で書かれているものはちょっと違ってました。

2つの物語には、共通項があります。
主人公たちは、経済的に恵まれた家庭に育ち、それなりに家柄であること。
対して、彼らの妻、恋人になった相手は、そういうものからかなり遠い状況にある人たちであること。
最初の話の妻は、父親は浮気の限りを尽くしていた元マグロの仲買人で、本人も学歴なく、キャバクラ勤めをしていました。
2つ目の話の元上司は、やくざの情婦の子供で、父親はわからず、施設で育っており、大学も中退しています。

わざわざなんでそんな設定なのか、って考えて読んで見ると、作者は「そんなのは、人間の基本の部分には何も関係ない。誰かを愛することに、そんなものは必要ない」と言っているような気がしました。

もうひとつ、興味深かったのは、最初の物語に出てくる女性の上司は、あからさまブスという表現がされていて、「夜、電気消してやっと抱けるくらいの容姿」とまで言われています。
しかし、彼女の優しさ、大人な配慮、本当の思いやりは、彼女の容姿には関係ありません。
最後、主人公は彼女と結ばれますが、そこまでの流れは決して安易なものではなく、彼がその決意をするのは、人間関係の根幹に触れる部分が関わります。
しかしそれを、「そんなブス抱くとか、普通ありえない。まったくリアルじゃない小説」と書評に書いている人がいて、色々な人がいるなぁと思いました。
作者はその部分においても、「人を愛するのに容姿なんて関係ないんだよ」と、実は書いていると思いました。

2つ目の話は、私は主人公の無神経なずるさがすごく勘に触りました。
彼女は結婚と恋愛をまったく切り分けていて、結婚するならこっち、恋愛するならこっちって感じでやっています。
恋人や結婚の相手に、イケメンやら金持ちやら、条件のよさを求める女性のほとんどが、「それほどに価値の高い男に愛される私は、それほどに高い価値がある」という意識を持っています。
プレゼントされたものの値段が自分の値段と言う人も、たくさんいる。
主人公の女性が婚約者に見ているのは、それと同じものであるように思いました。
そして、そんな彼女に「結婚しよう」と言えない元上司も、「だめじゃん」と感じました。
彼が彼女に「自分のものになれ」と言えない理由は多々ありますが、それでも言わないのは、不戦敗です。
しかし、もしかしたら、彼女に対して誠意を求めることは出来ないとわかっていたから、言うことができなかったのか。
そこが最後までモヤりました。

私が今、最も好きな小説でもある村上龍の「心はあなたのもとに」も、実は不倫の話ではあるのですが、この白石一文の小説とまったく違うという印象を持ちました。
なんで?と考えてみると、村上龍の小説に描かれたふたりは、不倫という関係を超えてしまっているものがあり、お互いに相手にまったく依存しておらず、エゴな部分がまったく存在しない関係なのに対し、白石一文の描く不倫関係は、お互い甘えと依存があり、エゴが丸出しになっているというのに気がつきました。
そして、「心から大事な相手だからこそ、すべてを満たすことは難しく、繋がることが出来ない」というのを描いた村上龍に対し、白石一文は、「好きな相手をどう手にいれ、自分と繋げておくのか」という関係を描いているのだなと思いました。

1作目で、主人公の幼馴染で親しい友人でもあった女性が、不慮の事故で亡くなるエピソードがあります。
彼女は、主人公の兄を慕っていて、彼に告白するための会いに行き、手痛くフラれ、その次の朝事故に遭遇します。
しかし、兄はそのことを誰にも言いません。
そして、自分が愛して、しかし決して手にいれることは出来ない女性である兄嫁を、その葬儀の中で、ぎらぎらと追い求めるシーンが描かれています。
主人公はそれを見て、家族と縁を切る決意をする。

誰かを好きになる、というのは、その人を手にいれることが成就になるのか。
それとも、自分にとって相手がどういうポジションであろうとも、その人を大事に思うことで成立するものなのか。

この本は、そういうものを描いているのかなぁと、読後思ったりしました。

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