orb

アニメとGAMEとマンガな日々
MENU

誰もいない世界で ~さよならオレンジ

いろいろ大変で、心身疲弊してしまいボーダー超えで何も出来ない(ご飯も食べられない)状態になってしまいました。
そういう時は、外向きでいるのは不可能で、内省の時間が増えています。
そんな中での読書、話題になっていた本、「さよならオレンジ」です。

内戦内乱のアフリカのどこかの国から一家で逃げてきて、難民としてオーストラリアの小さな街で暮らすサリマと、研究のために渡豪する夫についてきた日本人女性“ハリネズミ”の、それぞれ隔絶された世界が少しづつ変化していく物語です。

サリマは、ほとんど英語を理解できません。しゃべれません。
夫は、ふたりの息子と妻のサリマを見捨てていづこかへ消え、サリマは誰も知る人のいない世界で、言葉もほとんどわからない中、食肉をさばく仕事につきます。
文盲で自己主張をほとんどしないサリマを、夫はずっと馬鹿だと蔑み、ふたりの息子たちもサリマを馬鹿にします。
そういう中で、サリマは外国人に英語を教える学校に通いだし、そこで同じように英語を学ぶ外国人と関わるようになります。

“ハリネズミ”は、貪欲な学習意欲と向上心を持つ日本女性です。
しかし、夫の収入ではぎりぎりの生活で、生まれたばかりの娘を持つ彼女は、自身の向学心を満たすことも、自尊心を維持することも出来ずに、鬱屈した日々を送っています。

普通に生きていれば出会うことのなかったふたり、あるいは在るべき世界で生活していたのなら、知り合うこともなかったふたりが、寄る辺ない異国で出会い、つたない共通言語の英語を使って親交を持つようになります。

この小説を本当の意味で理解するのには、自身が、故郷や家族、友人という、本来、誰もが所属するべき繋がりから切り離され、人間は完全な孤独であるということを身をもって知っている必要があるなと思いました。
それと同時に、だからこそ、故郷、家族、友人という当たり前の存在とはまったく異なる、たまたま偶然知り合った人、たまたまそこで通りかかった人、あるいは偶発的に自分にそばにいた人に存在する真実の信頼、人間関係を知っている人には、深く心に刺さる物語とも思いました。

この小説を読みながら、私はサンディエゴにいた時に連日乗っていたバスを思い出しました。

日本にはもう帰る場所はないと思いながらの渡米、友人の薦めで通いだした学校には、免許を持っていない私はバスで通学していました。
バスは1時間に2本。
車でハイウェイを使いえば20分弱で着くところ、私は片道2時間半かけて、乗り換え2回のバスで通っていました。

2番目に乗るバスは、終点に着くまで1時間かかりました。
三分の二、海辺を走るバスでした。
バスに乗るのは、貧乏で車を買えない人、移民、免停くらった人。
しかも1時間に2本しかないので、乗客の顔ぶれはほとんど変わりません。
ずっと海を見ながら乗るそのバス、私は心から愛していました。
世界でたったひとりの自分を、しみじみと感じる時間でした。

そんな状態なので、どのバスも、運転手さんが私の顔を覚えてくれました。
おはよう、ありがとう、さよなら、また明日、と挨拶するようになりました。

毎朝6時、誰も歩いていない道路(サンディエゴの道路なんて、いつも誰も歩いていない)で、ひとりでバスを待つ私に、ウォーキングやジョギングする人達が挨拶してくるようになりました。

帰国する日が決まり、その日が近づいてきた時、とある人が私に言いました。
「ビジター(訪問者)の気楽な時間も楽しんだでしょ?あなたの夢の時間も、もう終わりね」

帰り道、下宿させてくれていた友人が、車を運転しながら私に言いました。
「矢野ちゃんがいなくなったら、毎日挨拶するようになったバスの運転手さんは、彼女最近いないなぁって思う。矢野ちゃんを見ていたジョギングしていた人達も、最近あの子見ないけど、どうしたかな?って思う。それは、矢野ちゃんがここにいた証明で、誰かの生活の中に、存在していた証なんだよ」

「さよならオレンジ」は、その時私が感じた気持ち、そのままを写し取ったような物語でした。

文体が、いかにも多言語を使用している人の書いたものらしく、普通の小説とはちょっと違う作り方です。
それがこの小説の本質を明確にしてきてる感じがします。

世界でひとりぽっちのサリマ。
そのサリマといっしょにいる事を選んだ人たちが、実は、サリマの世界にはいる事を許された人でもあるという事実。

この広い世界で、誰かとの繋がりを求めることがない人、求めることが出来ない人達のその世界を、「さよならオレンジ」は静かに描いています。


スポンサーサイト

該当の記事は見つかりませんでした。

Leave a reply






管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

trackbackURL:http://orbyano.blog75.fc2.com/tb.php/4062-e311f21f