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鍵はすべてをつなぐ ~サラの鍵

サラの鍵 (新潮クレスト・ブックス)サラの鍵 (新潮クレスト・ブックス)
(2010/05)
タチアナ・ド ロネ

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映画化されて、評判になっている作品の原作です。

第二次大戦下、ナチが勢力を拡大している頃のフランス ヴィシー政権において、フランスに住んでいたユダヤ人1万3000人がフランス警察によって検挙され、その後収容所に送られたという事件がありました。
検挙されたユダヤ人の中には、4000人を超える子供(10歳以下)が含まれていて、ほぼ全員が生きて帰ることはありませんでした。
自転車競技場に押し込められた人々は、人としての扱いを受けることもなく、食べ物も与えられず、非人道的な行為のもとに次々に命を落とし、かろうじて生き残った人々は収容所に送られました。
この事件はヴェル・ディヴ事件と呼ばれていますが、事実上、フランスの歴史からは長く葬り去られており、フランス人のほとんどが知らずにいたのですが、シラク大統領が演説でこれを公にしたことから、大きく取り上げられるようになりました。

フランスはナチに対抗し、レジスタンス活動が活発だった国とされることがほとんどで、フランス人(とくにパリの人)はそれを誇りに思う人も多いと聞きます。
しかしその自由と誇りのために敢然と立ち向かっていたはずの母国が、あろうことか、公僕である警察をもってユダヤ人虐殺を行っていた(荷担していた)という事実は、多くのフランス人に衝撃をもたらしました。

この小説はその事件を、両親とともに連れ去られた10歳の少女サラと、現代においてその事件を追いかけるジャーナリストのジュリアの両方の視点から描いた物語です。

サラの持つ小さな鍵は、多くのものに関わる鍵でした。
小さな弟の命、人々の悪意、人々の善意、思わぬ人と人との関係、そして、サラを含む多くの人々の運命に関わる鍵となっていきます。

何の悪意もなく、彼女たちを死に陥れようとする人々。
何の迷いもなく、命を賭けて彼女たちを救おうとする人々。
真実を追究しようとする人々。
それを責める人々。

人間には多くの種類があり、しかもひとりの人間の中には複雑な光と影が混在しています。
サラは10歳の目でそれを見、ジュリアは45歳の目でそれを見ます。

サラの人生は、多くの人の小さな、ささやかな、温かさによって永らえ、そして絶望へと導かれていきます。
海を越えてまで逃げていっても、どれほどの人が彼女を愛し大事にしても、サラはついにそこから逃げ切ることは出来ませんでした。

彼女の人生は最後までひとつの鍵によって閉じられ、彼女はその中に隠されたとてつもない出来事によって、その人生を終わらせていきます。

しかし、この物語は決して不幸な物語ではありません。

どれほど多くの人が、彼女を愛し、彼女の行く末を心配し、彼女の幸せを願っていたのか。
それがどれほどに彼女の人生を支えたのか。

物語後半、サラの鍵をめぐる人々が、ゆっくりとそれぞれの扉をその鍵によって開けられていく様は感動的でした。

アウシュビッツの生き残りであるという人をひとり、知っています。
収容所から解放された時、その人は15歳でした。
家族も親戚も友人も、誰ひとり、彼以外に他で生きてそこを出た人はいなかったそうです。
その人の腕には、囚人番号の刺青がありました。

歴史に残されていることは、かつてあった事実であり、現実に起きたことです。
たったひとこと、ヴェル・ディヴ事件 と記述されて終わってしまうこの事件も、その背後には、1万3000人もの人の死と、その死に荷担した人々と、それを救おうとした人々が、確かに存在しています。

サラの持つ鍵は、「それは現実に起きたこと。そしてあなたにも起こりうること」と、我々に告げる鍵でもあります。
そして、もしそれが自分の前につきつけられた時、あなたはそれに立ち向かうことが出来るか、その人のために行動を起こすことができるのか、真実を追究することができるのかと、我々につきつける鍵でもあります。
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2012.05.09 02:58