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愛すべき人々 ~おまえさん

おまえさん(下) (講談社文庫)おまえさん(下) (講談社文庫)
(2011/09/22)
宮部 みゆき

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人生最高に大好きな井筒平四郎シリーズの新刊です。
なんと、ハードカバーと文庫と両方で同時出版。

事件は、辻斬りから始まります。
なぜ殺されたのかというのは、どんな殺人事件にも絶対必須の事項ですが、この事件につながるのは、20年前に起きた誰も知らなかった殺人事件でした。

しかし、宮部みゆきの時代ものはそこで単純に終わりません。
事件はさらなる事件を呼び、多くの謎を残します。

確かに時代物語の姿を借りた推理小説ではあるのですが、この物語は人情物語の部分が素晴らしいです。

井筒平四郎を中心に、お徳、政五郎、小平次、弓之助、おでこなど、多くの人たちが物語にかかわります。
今回さらに、井筒平四郎の同僚の信さん、その大叔父の源右衛門、弓之助の兄 淳三郎、人情家の丸助が新登場します。

私は推理小説な部分にとくにこだわりはないので、途中で犯人がわかってしまうこと、殺人の動機に絶対的な理由が存在しないことなどはとくに気になりませんでした。
むしろ、あの理由が何人も人を殺す理由として成立してしまうことへの恐怖のほうが先立ちました。

彼らは自身が正しいことをしているという絶対的な自信があります。
しかしそこにあるのは、途方もない自己欺瞞と自己愛です。
正しい自分がするのだから、何をしてもそれは正しいという人間の前には、矛盾も常識も正義も通用しません。
実際、彼らが犯した殺人の数々は、彼らのただの思い込みと、手前勝手な正義感にもとづいたものでした。

自分が手にかけた何の罪もない、関わりもない人間の死に、「あんな人間」という意味のことを吐き捨てるように言い放ち、自分を愛してくれた人、大事に思ってくれた人々さえも平然と犠牲にする様は、怖気るほどに気持ち悪い様相を呈しています。
それは彼らの見た目の美しさに相反して、どす黒く醜く、そしてあさましい姿でしかありません。

しかし物語は、人間の別の面も描いています。

融通がきかない醜男な、しかし誠実で実直な同心 信さんが初めて経験する恋慕とそのあまりに無残な結末に対し、自分を責め、動くことができなくなった彼を勇気づけ、奮い立たせるのは、やはり誠実で実直な女たちです。

老害にしか思われなくなってしまった部屋子の老人、源右衛門の知識と知恵のすごさを知り、彼が安住の地を見出すきっかけを作るのは、平四郎と弓之助でした。

薄情で人でなしな母親にしか見えない おでこの母親きえの、本当の心の内。

要領よく、恐れられていた薬屋の、誰にも明かすことのなかった懺悔の想いと漢気。

あげだしたらキリがないほどに、出てくる人たちの想いに胸が熱くなるシーン満載です。

本気でうっかり泣いたのは、殺人事件が起きた場所で、現場あらためにつれてこられたおでこに手を差し出し、「お前のような童子(わらし)はこんなところにいてはいかん」と言って、手をつないで部屋を出て行く源右衛門の姿です。
後日、甥の信さんに「異なる童子だが、愛ごい(めごい)子だのぉ」と語った老人に泣いた。

妻に先立たれた実直な野菜売りの丸助が、たずねてきてくれた淳三郎と弓之助兄弟とすごす一夜のシーンなんて、もうのたうちまわるほど良いシーンです。
泣けた。

三部作といわれたこのシリーズ、ぼんくら、日暮しで、このおまえさん、三作終わっちゃいました。
でもなんか、まだ続くような気がします。
しょっちゅう出なくていいから、お願いだから、また彼らに会わせてくださいと、作者に祈る気持ち。

やっぱり江戸ものは、人情物語に限ります。

このシリーズは、本当に本当に本当に大好きです。
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