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どれほどに大事な人であっても、その人生に添うことはできない ~心はあなたのもとに

心はあなたのもとに心はあなたのもとに
(2011/04/13)
村上 龍

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地震の少し後、自宅勤務期間中に食料買出しに行って、本屋さんで見かけてふと買った本です。
なんというか、そういうふうに本に“呼ばれる”時ってあります。
そして、そうやって読んだ本にはずれはない。

個人投資家として成功している50代の男性と、30代前半の難病を持つ女性との関わりを描いた物語です。
恋愛小説という括りにしてしまうには、ちょっと違う印象があるじっくり読ませる深みのある小説でした。

主人公の西崎と香奈子は、西崎がホテトル嬢の香奈子をホテルの部屋に招くという、至って原始的な部分から始まっています。
西崎には、妻と娘ふたりの幸せな家庭があり、仕事でも成功しており、かなり豪華な生活をおくっています。
そして、香奈子を含む複数の愛人がいて、彼女たちとの関わりにおいても充実した時間を持っています。

物語の中で妻の存在は希薄ですが、時々出てくる妻との会話や言葉は、ふたりの夫婦生活がひじょうにうまくいっており、相手を理解し尊重しあう関わりであることがわかります。
しかし彼はそれでもなお、才色兼備の局アナ、美しくソツない性格の風俗嬢ミサキ、そして香奈子との関わりも大事にしています。

その中で、西崎と香奈子の関係は特別です。
何が特別なのか。
なぜ、特別なのか。

それがこの小説のキィのような気がしました。

登場人物の年齢が年齢だけに、愛だの恋だの、「お前が好きだ」だの「俺のものになれ」だの、そういうものはいっさいがっさいありません。
むしろ、大人としての狡猾さや、年齢を重ねた者にしかわからないであろう感情の揺らぎ、お金で解決することやお金が生み出すものがどういうものかが描かれていて、そこから考えるとこの小説を恋愛小説と評してしまうには抵抗があります。

恋愛小説の決着は、彼が彼女のものとなり、彼女が彼のものとなる、それが唯一無二のエンディングと思います。
しかしこの小説は違います。

好きな相手と恋することが出来ない。
好きな人だから関わることが出来ない。
大事な人だから愛することが出来ない。
かけがえのない人だから、自分のものにすることは出来ない。

そういう物語です。

最後の最後まで、私には西崎という人が理解できずに読み終わりました。
彼が女を抱くのには欲望はもちろんありますが、愛情もそれぞれにあります。
だからといって、多情な人間ではありません。
それぞれの女性たちが幸せな気持ちでいられるように、ありえないほどの配慮を見せるし、愛情表現もします。
しかし、誰のものにもならないし、誰かを自分のものにしようとする気はありません。

その中で、香奈子だけは何が違ったのか。
香奈子だけが彼の感情を揺すり、動かし、せつない気分にさせます。

村上龍の文章にはウェットな部分も感情的な表現もありません。
淡々と語られる西崎の言葉は、激しい愛の言葉もなければ、女性を喜ばすような甘い台詞もありません。
でもだからこそ、そこらの恋愛小説にはない、心の深部をかいま見るようなものがそこに存在するような気がしました。

冒頭で、香奈子の死が先に書かれています。

心から大事だと思った相手でも、その人生に添うことは出来ません。
結婚や恋愛が、男女の関わりの至高のあり方でもありません。

では、何が大事なものなのか。
何がそこにあるのか。

この小説はそれをじっくり描いていたような気がしました。


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